0って何?「無い」ことの発見
私達が何気なく使っている数字の中に、どんな数に足しても引いてもその数に影響を与えないという特殊な性質を持つものがあります。
言葉にすると小難しい感じがしますが、要するに「0(ゼロ)」のことです。
そんなの当たり前じゃないかと思われる方が多いでしょうが、このゼロという数字は中世のヨーロッパに大きな影響を与え、ひいては現代社会の大きな礎となったと言っても過言ではないのです。
中世までの数字
ここでは古代ローマ帝国で生まれたローマ数字を例に見ていきましょう。
ローマ数字では、以下の表に黄色で示した数を基準とし、特定の規則に従って足したり引いたりすることで数を表します。
ある特定の規則にしたがって数を表記する方法を「記数法」といいます。
例)
- 8→5+3→Ⅴ+Ⅲ→Ⅷ
- 14→10+(5-1)→Ⅹ+(Ⅴ-Ⅰ)→Ⅹ+Ⅳ→ⅩⅣ
ここでまず注目したいのは、1000より大きい一文字の記号が無いことです。
この記数法では同じ記号は3つまでしか連続できないため、4000以上の数を表すことが出来ません。
実際には、他に新たな記号や規則を追加して更に大きい数を表す工夫がされていましたが、いずれにせよ煩雑な表記になることは間違いなく、地域差や記号の誤用などが発生する問題があったようです。
また、数の大小と文字数の大小が一致しないため直感的に分かりづらい、筆算に向かないため計算に用いるののが困難など、この記数法ではデメリットだらけでした。
中世後期からヨーロッパに広まった新たな記数法
15世紀ごろになると、インドから革新的な「インド記数法」がアラビア人を通じてヨーロッパに普及していました。
アラビア人たちは、それまでヨーロッパの人々が数として扱ってこなかった「ゼロ」を数字として持ち、十個の記号だけですべての自然数を表すことが出来ました。彼らの使った数字を、「アラビア人の使う数字」という意味で「アラビア数字」と呼ぶようになり、現代でも日常的にアラビア数字が用いられているのです。
ローマ数字では特定の規則に従い、数が大きくなると新たな記号を加えることで表記していましたが、アラビア数字では、桁数を増やして一番小さい桁をゼロに
戻すループによって大きな数を表しました。
1,2,3,……と続き、持っている記号の限界である9に達すると一つ桁を増やして1をおき、元あった桁を0に戻し、「10」としたわけです。
このような方法を「位取り記数法」といいます。
十個の記号を使うインド記数法は「十進位取り記数法」ともいいます。
位取り記数法を使えば、桁さえ増やせばいくらでも大きな数を表記できます。
大きい数を表現できるということ
今日では、中世ヨーロッパでは使うことのなかったであろう大きさの数を当たり前のように使っています。
日本の人口は億を超え、国家予算は300兆を超えていると言われています。
スーパーコンピュータの計算速度は毎秒1京回を優に超え、宇宙全体の恒星の数は少なくとも4垓個以上と推定
した研究もあるそうです。
ところで、世界には数詞を3つないし4つしか持たない部族も存在するようです。
1つ、2つ、3つ。それ以上は「たくさん」
外界との関わりが少なく、貨幣と言った概念や複雑な計算を必要としない生活をしている部族では、それ以上大きな数を持つ必要がなかったのでしょう。
中世のヨーロッパとなればそうはいきませんが、ローマ数字を使えば必要な分の表記は出来ていたのではないでしょうか。
文明や社会の規模の増大とともに、必要とされる数も増大します。
インド記数法を欠かすことの出来ない今日の大規模な社会の実現は、ゼロの発見なくして成し得なかったでしょう。
みなさんもゼロを再発見してみませんか?